毎月の例会で、会員の有志がこけしを展示して、そのこけしにまつわる話を聞かせてくれます。



−6月− 大沼家の鳴子古様式
(国府田 恵一)
肩部のロクロ模様
     D     C    B    A     @
大沼秀雄さんが岩太郎から続く名門大沼家のこけしを継承するために、岡崎才吉さんから独立したのは昭和33年7月であった。@は秀雄作で「33.11.9」のゴム印が押してある。丸頭に湾曲の少ない直線的な胴、はにかんだような表情が如何にも昭和30年代の少女を思わせて好きなこけしである。

この古風なこけしにはそれ以外にも珍しい様式が使われている。肩の上面から山部にかけて引かれた太い赤のロクロ模様である。Aはお母さんのみつお作(55才、33〜34年)、Bは秀雄さんの34年頃の6寸。いずれのこけしにも@同様のロクロ模様が描かれている。そこでこの様式を秀顕さんに再現して貰ったのがCのこけし(平成12年)。その後秀顕さんはこの様式を引き継いでくれており、昨年横浜の「人形の家」での実演の時に購入したDのこけしにも、この様式は描かれている。

この様式が大沼家だけのものか調べてみると、現役工人の復元作に同様のロクロ模様が見られた。岩太郎系列の岡崎家(斉)、桜井家(万之丞、コウ)の他、高勘(盛)、金太郎系列(岸正男)、幸八系列(遊佐民之助)などである。唯一確認出来なかった高亀についても高橋正吾さんに聞いたところ、「ある」とのこと。正吾さんは、肩の山に引いたロクロ線が何かの拍子に下にはみ出してしまい、それを隠すために塗ったのが最初で、それが評判が良く他の工人にも流行したのではないかと話してくれた。戦前の鳴子こけしの古様式の多様性を示す良い例である。